業界関係者必見!「聴覚医学会 2019 大阪」レポート

2019年11月6日から8日までの3日間、グランキューブ大阪にて「第64回日本聴覚医学会総会・学術講演会」が開催されました。

この学会では「補聴器」に関する研究発表も多く、耳鼻咽喉科の先生や言語聴覚士、ろう学校の先生、更には多くの補聴器業界関係者が集まりました。会場の様子を一部簡単にご紹介します。

機器展示コーナー

中央にミーティングスペース、壁際に各メーカーの展示があります。

GNリサウンド

話題の遠隔調整や、移動中に充電型可能な最新モデル「クアトロ」等が展示されていました。

ワイデックス

こちらは、補聴器の紹介よりも耳鳴治療に役立てられる「ZEN」を全面に押し出した展示。

オーティコン

「脳で聴く」のコンセプトを押し出した同社らしい展示。

ヴェロックス最新シリーズ「OpenS」を中心に展示。子供向け機種が同展示で初お目見え。サイズに加えカラフルなカラーケースに目を奪われました。

その他のブース

奥からオーティコン、ブルーム、ベストサウンド、シグニア、コルチトーン

コルチトーン が扱う補聴器特性測定器。

補聴器メーカーの製品出荷時にも使用される本格的なモデルが展示されていました。約400万円するモデルも。

フォナック とアドバンスバイオニクス(人工内耳)。FMでお馴染みのフォナックは、補聴器活用に留まらず、ノウハウを活かした人工内耳との連携機能なども含め、この分野の先駆者的なポジションを再認知出来るブランドイメージ。

普段は接点が少ない人工内耳の情報を求め、資料を集める補聴器専門店担当者の姿もチラホラ。

さて、ヒヤリングダイジェストジャパンでは当日参加した補聴器販売店の方、補聴器相談医の先生にインタビューを行い、各自の視点で語っていただきました。

地元大阪の補聴器販売店Aさんインタビュー

補聴器

機器展示コーナーの全体的な印象はどうでしたか?

対象者が耳鼻咽喉科の先生ということもあり、現場の医学的ニーズに応じたラインナップをメインに展示されていました。

今回、私自身、初の参加となりましたが、豪華なイメージのあるエンドユーザー向け展示会に比べて、シックで落ち着いた雰囲気、必要な情報を従事者に端的に伝えたいという意図がハッキリわかる展示だったと思います。

補聴器

今回が学会初参加なんですね。主に「補聴」の群を聴講されたということですが、ご感想をお聞かせください

色々と刺激を受けました。補聴器を日々扱う我々と、医学的に補聴器を診る先生方の見解がどうクロスするのか?の視点で聞いていました。

個人的に勉強になったのは、発表後の質疑応答。

補聴器フィッティングには様々なパターンやセオリーがありますが、発表に纏わる見解の相違が聞けた事はもちろんのこと、時には活発な意見交換等も行われ「そのような考えがあるのか」と再発見する良い機会となりました。

補聴器の世界的名著である「補聴器ハンドブック」を翻訳をされた、国際医療福祉大の中川雅文先生の質疑が、毎日現場を知るものからすると、腑に落ちる事が多かったです。

発表にあったフィッティングの活用はもちろん、世界的な視点で効果のあるフィッティングを実践していく必要性を感じました。

個人的な要望としては、発表が短時間と言うこともあり、臨床テスト実施に至った背景やデータ抽出の細かな設定条件が見えづらい発表もあった気がします。

補聴器相談医 B先生へのインタビュー

補聴器

聴講した演題と興味深いトピックについて教えてください

たくさんの演題を聴講しました。点数稼ぎも兼ねて(笑)
中でも興味深かったものを挙げてみたいと思います。

教育セミナー2「難聴と認知症に関する臨床研究の最近の話題」

認知症対策の一つとして補聴器による聴覚補償というテーマが最近トピックとなっているわけですが、現時点では、まだその効果についてはデータ不十分という結果がWHO含めて国内での大規模研究でも明らかとなっているようです。もちろん、認知症とひとえに言っても様々な種類があるわけで、補聴器による認知症対策として有効なタイプ(脳血管型認知症)には効果があるようです。これからも注目していかなければならないテーマと感じました。

シンポジウム1「感音難聴・伝音難聴への挑戦」

IPSを用いた治療、補聴器の役割、人工内耳、人工中耳、軟骨伝導補聴器など、各領域のトップランナー達のシンポジウムでしたが時間切れで尻切れトンボになってしまいました。IPSはまだまだという印象でした。補聴器にはやはり適応を見極めて、何でもかんでも補聴器というのはよくないと思いました。手術的な治療に関しては、感音難聴・伝音難聴対策ともにかなり進歩してきたなあというのが第一印象でした。軟骨伝導補聴器は、あらためて発想の斬新さと理論の完璧さを理解できて、良い適応があればお勧めしたいと感じました。

第67回聴覚生理研究会1「Otologic outcomes after blast injury」

内容としては、当初ボストンマラソンの爆弾テロによる内耳損傷に関するものでしたが、それとは別に中耳インピーダンスに関しての最新の知見を説明していただき、非常に興味を持ちました。一般的に加齢性難聴は、高音漸傾型の感音難聴という聴力像を呈しますが、実は伝音難聴ではないのか?というものでした。骨導聴力測定でたまに4 kHzのところでわずかに気骨導差があるのを見かけることがありませんか?骨導は正確な高音部の測定が技術的に困難なため、現時点では評価できないものの、実は加齢性難聴は伝音難聴の場合もあるというのは非常に腑に落ちました。補聴器で同じ高音漸傾型でもすごく効果的な人もいればあまり役に立たない人もいるので。実際に発表では生前の聴力検査結果が存在(一般的な加齢性難聴)するご遺体の中耳を観察して、内耳がほとんど問題なく、鼓膜・耳小骨連鎖の効率の良い振動伝達が阻害されていたということを示してくれました。今後はワイドバンドティンパノメトリなどの検査がより進歩して原因が解明され、より厳密な難聴対策の選択が可能となるでしょう。

学会の詳細と来年の聴覚医学会は?

今回の学会の詳細についてはホームページをご覧ください。

第64回日本聴覚医学会総会・学術講演会

来年は2020年10月8日〜9日に名古屋のウインクあいちで開催とのことです。

聴覚医学会は、日本の聴覚機器の今後を左右する重要な学会です。引き続き、注目していきたいと思います。