神経科学から認知症・難聴まで「第7回宮古島神経科学カンファレンス」レポート

2019年11月22〜23日の2日間、沖縄県宮古島市で「第7回宮古島神経科学カンファレンス(MICoNS 2019)」が開催されました。

こちらのカンファレンスは「日本脳電磁図トポグラフィ研究会」「NU-Brainシンポジウム」「日本・ポーランド生体物理学会議」との共催で、神経科学領域を中心に幅広い演題発表があり、活発な意見交換も行われました。

補聴器業界ではまだ聞き慣れない学会ですが、国際医療福祉大学医学部耳鼻咽喉科教授の中川雅文先生をはじめ、臨床検査技師や言語聴覚士による専門分野の発表もあり、今後、聴覚分野ともクロスする部分もあるのでは?と、当サイトではひと足早く注目し、取材してきました。

身近な社会問題としての「認知症」に関する情報提供が充実しており、補聴器業界としても知っておかなければならない分野ではないか?と着目。

数ある演題の中でも、今回、特に興味深かったものだけを厳選してご紹介します。

シンポジウム「てんかん診療の最前線」

てんかん診療も数ある疾病の中で特に難しいものですが、その診断、手術、リハビリテーションの各段階においても多くの課題を抱えているとのこと。東北大学の中里信和先生は『てんかん診療は「セカンドオピニオン」』という演題で、ご自身の臨床の様子や現状での問題点などをわかりやすく解説してくださいました。「セカンドオピニオン」とあるとおり、複数の医師が治療に介入することで、その患者さんにとってより良い方向性が立ち現れてくる様子が印象的でした。現在は、実験的な取組として遠隔診療を行なっており、運営の方法についても質疑が活発に行われました。

「聴力レベル正常は、聴覚に異常なしと言えるのか?〜APDとDead Regionについて〜」

中川雅文先生による情報共有。中枢性聴覚障害の一つであると定義されてきたAPD(聴覚情報処理障害)が、内耳性難聴(外有毛細胞の不感領域)によるものではないかという近年のブライアン・ムーア博士の提言で、議論がぶつかっている旨を紹介されていました。詳細は年明けに行われる「補聴器ハンドブック勉強会 2019年度 in 那須」でも聴講できるようです。

「認知症を地域で支える〜在宅治療、認知症初期集中支援チーム、SHIGETAハウスプロジェクト〜」

湘南いなほクリニックの内門大丈先生による教育講演。在宅医療になる原因疾患の中でも認知症は約40%を占めているものの、対応に関するシステムや制度の確立は十分でない状況が続いているとのこと。特に「認知症専門医」の数も増えておらず、医療・介護だけでは認知症の方やその家族の生活を支えることが難しい実情があります。内門先生は在宅診療支援診療所として10年以上の実績があり、現在は平塚市から「認知症初期集中支援事業」を委託され、さまざまな活動を行なっています。コンセプトである「安心して認知症になれるまち」という愛のあふれるフレーズに内門先生の真摯な取組がつまっているようでした。

認知症カフェなど地域の取り組みが見える「SHIGETAハウスプロジェクト」についてはこちらをご覧ください。

認知症を症状からひも解く

三重大学医学部附属病院認知症センター長の佐藤正之先生による講演。主なトピックとしては、評価法の新しい試みと画像診断について。アルツハイマー病は頭頂葉の血流低下が初期に見られるが、頭頂葉は視空間認知を司っているため、構成障害と関わりが深い。従来の評価法(立方体の模写など)では完成形を評価してきたが、書き順などのプロセスを評価することによって、より検出率を高くする試みが行われており、その様子を詳しく報告されていました。

何より驚いたのが、佐藤先生自身が数年前に学会の最中に脳出血で倒れられて、一命を取り止め、1年のリハビリテーションののち、現場復帰されたとのエピソード。車椅子での移動について、自分が体験してみて不便さがよくわかったと語られていました。内容もわかりやすく、お話も流暢で、とてもそのような既往歴があるようには見えないほどエネルギッシュで素晴らしい先生でした。

まとめと関連書籍のご紹介

難聴と認知症の関連が言われてから数年が経とうしていますが、一括りに「認知症」とは言えないような、さまざま症状や原因、治療や介入方法があります。私たち補聴器業界に関係する者も、ユーザーさんがそのような症状をお持ちであることも少なくはありません。また、自身の祖父母や両親なども認知症になり「他人事」でなく「自分事」になる時というのがくる可能性もあります。

今後の社会をより良くしていくためにも、「認知症」を知ること、より良い対処法を模索していくことは多くの人にとって必要なことかもしれません。

最後に、カンファレンスでも座長を務められた横浜総合病院 臨床研究センター長の長田乾先生が編著された書籍をご紹介します。

右)MICoNS 2019抄録集 左)認知症これだけガイド

「ナースが知っておく 認知症これだけガイド」

ナース向けの本ですが、言語聴覚士をはじめ医療関連職種、もちろん認定補聴器技能者でも、持っていて損はない一冊です。病態・疾患・検査・予防・治療・ケアについて網羅されており、イラストも踏まえ非常にわかりやすい構成になっております。多くの人が読める内容ですので、価格も2,600円(税別)となっており入手しやすいのが魅力です。「認知症」の理解を深めたい方におすすめいたします。