補聴器がオシャレになるツール「デコチップ」をご存知ですか?今回は製作者である北村さんにお話を伺いました。デコチップ誕生のきっかけから、制作の裏話、デコチップに込められた想いなど・・・1時間半にわたるロングインタビューから厳選してお届けします。
最初に、なぜデコチップを作ることになったのか、きっかけを教えてください
今年(2019年)の春に、「アートモールド」 という、普通のイヤモールドではなく、デザイン重視の、ちょっとおしゃれな感じで楽しんでいただけるものを作ったのがきっかけです。
うちの母体がイヤモールド屋さん(株式会社日本イヤモールド)なので、Instagramにも出していたんですね。
以前から、補聴器本体にデコレーションをしていましたが、そのInstagramを見てくれた、松島亜希さん※からメッセージ が来て。(※デコチップ発案者、先天性重度感音難聴の補聴器ユーザー、現在SNS、ニュースサイトでも話題)
「実は今こういうことを考えているのだけど、素人ではやっぱり限界があるから、補聴器のプロの方に協力を仰ぎたい」みたいな感じの依頼で。
いろいろ話をしていくなかで、試しに作ってみようかっていう感じになり、作り始めたのがきっかけです。
あきさんとの出会いが大きなきっかけになったのですね。以前から北村さんも補聴器のデコレーションをされていたということですが、どんな想いがあったのでしょうか?
数年前から一部の補聴器販売店や補聴器メーカーが(デコを)されていますが、自分の気に入ったものが無かったので、自分で作ってみるようになりました。もし自分だったら、どんなデザインのものが良いだろうと思ったのがきっかけです。
私は以前アパレル業界にいたので、ちょっとおしゃれにはうるさいところがあって(笑)、もうそれこそ、健聴者が「何それ?!カワイイ〜、羨ましい!」と思うようなそういうファッショナブルなものはできないのだろうかとずっと考えていたんですよ。
「ネイルチップのように補聴器専用のチップを作って、付け外しが簡単に出来て、着せ替えができるような、そういったものがほしいんだけど実現できないか?」
あきさんからそういわれました。
付け外しができれば、シーンによって自分の好きなように着替えることができる。それは面白いなと。
私は普段イヤモールドの作成のお手伝いをしているので、イヤモールドを作る応用で作れるんじゃないか?と。
試しに作ってみようかなと思い、今に至ります。
それと、補聴器をお預かりしなくても、待っているだけで届くっていう状態にしたかったんですけど、そこがちょっとやっぱり大変でしたね。(注釈:通常、補聴器の修理などは現物を預からなければならないので、その期間は手元に何もなく、ユーザーにとっては非常に困る期間でもある)
最初のうちはやっぱり失敗が多くて、かなり試行錯誤していたんですけど、ある程度形になってからは、(商品化まで)早かったですね。
短期間で相当の数を作られたのではないですか?今までの作品数はどれくらいでしょうか?
デコチップだけでも50種類以上ありますね。
ほぼ毎日作っているので・・・(笑)
毎日、インスピレーションで「こんなのもできそう」とかSNSの反応を見て作っていたら、やっているうちにエライ数になってしまっていますね。
いつ作っているんですか?業務時間内?
いや、家に帰ってからです。
それはすごい。デコチップを1枚作るのにどれくらい時間がかかりますか?
お客様とやりとりするので、最初のデザインでとても時間がかかるんです。
作成自体はだいたい1時間ぐらいですね。
デザインが出来てしまえば、土台を作るところから始まって、ネイルの要領でアートをして仕上げます。
販売のほうは、専用サイトや、北村さんのSNS経由で可能だということですが、全国から問い合わせや注文が来ていると。
そうですね。
地域に関係なく、お届けできるようにしたかったんですよね。
まだ4ヶ月(取材当時)しか経っていないのに、とても話題になっていますよね。さまざまなネットメディアでも取り上げられていますし。
7月に販売を開始してからはまだ2か月ちょっとしか経ってないんですけど、
先日、あきさんの Twitter がバズって一気に注目度が上がって、多くの方が「こういうのを待ってた!」みたいな感じのことを言ってくれました。
補聴器をお預かりしなくてもいいように、補聴器の形を取って送ってもらうシステムの苦労点は?
いろいろ方法を試行錯誤したんですけど、補聴器の全メーカー全機種に対応しようとすると、店頭の在庫も限られているので無理があるじゃないですか。
普遍的な補聴器の形を想定して作っても、耳へのちょっとしたフィット感とかを考えると、イヤモールドのデコのようにはいかないですし。
結果的に、お客様に型取りをしていただいて、その形をベースにチップを作るっていうところに行きつきました。
ユーザーさん達は上手く型取り出来ていますか?
結構、みなさん、型はキレイに取ってくれています。字幕付きの解説動画も一緒に出しているので、それで見ながらやっていただいています。
補聴器販売店を運営される側の視点から、もう少し踏み込んで質問させて頂きたいのですが…こういったサービスは、本来なら来店誘引を目的としたところも多いですが、採算度外視のところもありますよね、デコチップは。実際、制作にもかなりの時間がかかるし。
できればお店に来ていただきたいですけどね。
店頭で補聴器を買っていただいた方には、値引きとか、デザインをその場で直接相談してよりイメージに近い形のものを作ることができますよっていう利点はありますね。
それよりも何より、補聴器のマイナスなイメージをどうにか払拭したかったのです。
北村さんが感じておられる「補聴器のマイナスイメージ」とは、ズバリ?
とにかく皆さん、隠そうとすることが大前提。見えないように隠そう隠そう、難聴自体も隠そうとするし、「補聴器なんてもんを着けるのは恥ずかしい」っていう、そういう意識自体をどうにかしたかったんですよね。
今、イヤモニとかでもすごくおしゃれなものたくさん出ているじゃないですか。
その中でどうして補聴器だけ隠さなくちゃいけないんだろうっていうのはずっと思っていて、どうせ着けなきゃいけないんだったら、着けていることが周囲の人も分かれば配慮もしてもらえるし。
それとイヤモニと違って、補聴器や人工内耳は難聴者の方しか使わないじゃないですか。
逆にそれを羨ましがられるような、そういうものにできないんだろうかって思っていました。
それはもうこの仕事をしながらずっと思っていて、とにかくかわいいものとかおしゃれなものとかそういったポジティブなイメージが補聴器にあまりにもなさすぎて。どうにかできないのかってずっと思っていたんですよ。
これまでの補聴器イメージを変えていきたい!
それと、ものすごく閉塞感があるじゃないですか、この業界。
上から変えてもらおうと思っても全然変わらないし、全く変化がないのでどこかでイメージを変えられる何かがないのだろうかっていう風に思っていました。
補聴器のマイナスイメージを払拭する、デコチップの魅力とはなんでしょうか?
以前からある、デコ補聴器には問題点がありました。
補聴器本体に装飾すると、修理の時に場合によっては、それが全部無くなってしまうとか。
あとは、学校で(デコ補聴器を)着けてはいけないとか、華美な装飾はダメって言われている子どもたちもいて。
大人でも、TPO に合わせて、あまりギラギラしたものをつけるのにふさわしくない場面だと、補聴器の本体に装飾してしまうと、全部外さなきゃいけなくなっちゃったりするじゃないですか。
この話も、あきさんから聞いて、デコ補聴器における問題点だなと。
ずっと装用をする前提だと、デザインも限られてしまうので、思い切ったデザインができなくて。
どうしても市販のシールを貼ったり、ストーンを貼ったりっていうような、似通ったデザインのものしかできないのが現状でした。
そんななかで、何かもっと面白いもの、バリエーションがあるものを作りたくて、今となっては夢中になってデコチップを作成しています。
現在作成されているのは耳かけ型補聴器用のものですが、耳あな型、特にフェイスプレート(表面、電池蓋やマイクがある)へのデコレーションについてはどうでしょうか?あえて魅せるというような
それもやってみたいとは思うんですけど、耳あな型の場合、マイク位置とスイッチの関係で、どうしても上からカチッとはめ込むっていう形のものは難しいと感じていて。今の段階ではちょっと手が出せない状態なんですよね。(※補聴器部品の機能への影響を与える上の問題で)
弊社は母体がイヤモールド専門なので、どうしても耳かけ型、その中でもニーズは中等度以上の難聴の方用になります。
補聴器の本体が大きいからこそ、逆にできるおしゃれみたいなものを追求できないかという気持ちもあって。
高度・重度難聴となると先天性の若い方とか、福祉補聴器の使用も多いと思うんですが・・・
福祉で購入された小学生の男の子がデコチップを使用しているんですが、かなりお気に召していただいたみたい。
お母さんにも「毎日眺めてはルンルンしている」って感想を送っていただいて。この方はお母さんがオーダーしたんですが、相談しながらデザインして作りました。
福祉対応の補聴器って、近年やっとカラーが選べるようになってきてはいるけれど、デコチップでこれだけイメージが変わって、喜んで装用してもらえるならいいですね。
以前、モニターとして小学生の女の子に協力してもらったんですけど、補聴器本体はかわいいピンクのケースで、それをもっと可愛くデコレーションしたいのに、学校で禁止されているからできないと。
デコチップにしてみたら、補聴器がかわいいので、自宅での装用自体が楽しくなったと感想をいただきました。
そういう意味でもチップ型はいいですね
何種類か持っていると、その時の気分によって今日はこの色、今日はこのデザイン、お出かけの時にはこれ、といった感じで、自分で使い分けているみたいなんですよ。
それが結構楽しいみたいで。
すごく補聴器を着けることに前向きになってくれたって、お母さんから聞いて。本当にこっちが嬉しくなるような反響が多いですね。
リアルなユーザーさんたちからの喜びの声も多いデコチップ。続いては、制作や今後の展開についても聞いてみたいと思います!