2020年1月12日(日)と13(月・祝日)の2日間、栃木県那須塩原市で「補聴器ハンドブック勉強会 2019年度 in 那須」が開催されました。開催概要はこちらから。
この勉強会は、補聴器専門書の世界的名著「補聴器ハンドブック」の日本語版監訳者で、国際医療福祉大学医学部教授の中川雅文先生の主催によるもので、全国各地から認定補聴器技能者、言語聴覚士だけでなく耳鼻科医、補聴器相談医など約40名が参加しました。
「補聴器ハンドブック勉強会」とは
この勉強会がスタートしたのは2年前の秋。「補聴器ハンドブック勉強会2018年度」は新横浜にて全10回で開催されたとのことで、今回はシーズン2ということになります。背景としては、補聴器販売における専門家の育成・技術向上の必要性が求められる中、補聴器フィッティングにおける中・上級者向け勉強会が少ないこと、著書「補聴器ハンドブック」がかなりのボリュームのため、自主学習が難しいことから、誰でも参加できるオープンな勉強会のニーズがあったということです。
この勉強会では、中川先生だけでなく、各章の翻訳者によるレクチャーに加え、最新の情報や現場ならではの独自の視点も踏まえ、教科書プラスアルファの情報が満載の勉強会となっています。
勉強会のハイライトをご紹介
今回の勉強会では6つの講義と2つの特別講義、参加者によるポスター発表、実技実習、さらには手話講座と多岐にわたり、「補聴器」だけでなく「聴覚障害」というより広い視点で学びを深める仕組みとなっていました。
中川雅文先生からは「規定選択法」におけるメインの処方式「NAL」と「DSL」の適応について、REM(実耳測定)の重要性、騒音暴露と難聴、近年話題のHidden Hearing loss(かくれ難聴)とTENテスト、非古典的聴覚路とラウドネス、WHO(世界保健機関)による難聴予防キャンペーン「Make Listening Safe」について、難解な話題をわかりやすく説明されていました。
各翻訳者からは「補聴器のイヤモールド、イヤシェル、カプリングシステム(5章)」「高度な信号処理(8章)」「補聴器装用候補者についての評価(9章)」「補聴器装用者への教育とカウンセリング(13章)」「聴覚リハビリテーション効果の評価(14章)」について、教科書の内容だけでなく、日本と世界の状況、臨床現場での取り組みを踏まえた実用的な視点、メーカーを横断した最新技術の解説など多岐にわたり解説がありました。
実技実習ではREM(実耳測定)と今話題の「3Dスキャン型耳型採取」機器に触れることができました。REM(実耳測定)については、導入施設数が圧倒的に少なく、補聴器関連の講習会でも積極的に教えている内容ではないため、みなさん熱心に取り組まれていました。
手話については、言語聴覚士で手話通訳士の資格を持つ先生から、日本における手話の状況や当事者の心情について、他にも簡単な手話や指文字のレクチャーがありました。
休憩時間には、参加者による展示や症例報告発表も行われました。積極的な聴講と質問が飛び交い、参加者全体の熱心さが伝わってきました。
展示ブースでオリジナルイヤモールドを発表された城北補聴器大山店さんの様子がTwitterでも話題です。
特別講演として、ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社 代表の中石真一路さんからは「難聴高齢者との音声コミュニケーションの課題と最新の解決策〜医療で広がる高齢難聴者との対話支援とヒアリングフレイル予防〜」と題して、「耳につけない対話支援機器・comuoon(コミューン)」の活用事例の紹介がありました。
聞こえが悪くなったら補聴器をつけて・・・というのはわれわれ補聴器業界として当たり前の発想なのですが、この「comuoon(コミューン)」は聞こえが良くない人に何かをしてもらうのではなく、聞こえが悪くても聞きやすい環境を提供すればいいのではないか、という「バリアフリー」的な考えに基づいています。介護施設などでは、聞こえの良くない寝たきりの患者さんとのコミュニケーションの難しさが問題になっていますが、そのような人ほどさまざまな理由で補聴器装用が難しいのが現状です。耳元で大きな声で話すしか手段がないので、リハビリテーションでの介入など、身体(特に下肢)を動かすのに耳元で指示が出せない場合、本来行うべき訓練も出来ません。講義の中では、「comuoon(コミューン)」を使って、理学療法のリハビリテーションをスムーズに行えるようになった実際の様子を動画で見ることができました。
「comuoon(コミューン)」についての詳細はこちらのサイトをご覧ください
今回の勉強会の様子は中川雅文先生のSNSやコンテンツでも様子を伺い知ることができます。
Twitter「聴覚評論家 中川雅文」
はてなブログ「こちら難聴・耳鳴り外来です!」
note 「ドクターなかがわ」
その他会場の様子
今回の勉強会に参加した補聴器専門店の方もブログやYouTube(クリックすると動画へ移動)に投稿されていました。
次回の「補聴器ハンドブック勉強会」は・・・
2020年11月23日(月・祝)に大阪で1Dayセミナー、2021年1月10日〜11日の2日間、千葉県の海浜幕張にて勉強会を予定しているとのことです。
開催詳細は上記、中川先生のSNS等で案内されるとのことですので、興味のある方は随時チェックしてみてください。
中川先生の講義は何年も前から聴講させていただいていますが、いつも新しい発見があり、良い刺激になります。補聴器の勉強が足りないと感じている販売店の方々に、ぜひ参加していただきたい勉強会です。とてもアットホームな雰囲気の会ですので、参加者同士の交流も魅力となっているようです。次回の勉強会も楽しみですね。取材:シモザワ マキ